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尾方宣久の京都ハードボイルド

第1回 鞍馬山

京都に住んで十年以上経つ。
大学進学で京都に来て、芝居やらアルバイトやらをしているうちに(…もちろん勉強も)結構な月日が流れてしまった。しかしそれだけ長い間、京都にいたにもかかわらず、京都のことはあまり知らない。
知っているのは、近所に新しくコンビニが出来たとか、近所のスーパーのお惣菜が安くなる時間とか、近所のレンタルビデオ屋が半額セールをやるらしいとか、近所のことばかりだ。しかも生活感あふれるものばかり。
たまに友達が京都に遊びに来るのだが、そんなときもどう案内すればいいのかいつも困っている。
友達は当然のように京都を知らない、そして僕が任せられる。その結果、修学旅行のようなコースをいつも回ることになってしまう。
このままではいけない、僕はそう思い始めた。
「そうだ京都、行こう」と思った。

というわけで、早速行ってきた。
鞍馬山に行ってきた。
鞍馬山は、いま京都でいちばんホットな場所である。
そう、大河ドラマ「義経」ゆかりの場所なのだ。
大河ドラマくらいでと、侮ってはいけない。僕は昨年その影響力を目の当たりにした。
壬生寺の近所に僕は住んでいるのだが「新選組!」の影響で付近は観光客で溢れかえっていた。週末は前の道路が終日通行止めになるほどだった。出店では新選組グッズからヤンキースの松井のポスターまで売っていた。
そんな壬生寺のようなホットスポットぶりを覚悟して行ったのだが、人はまばらだった。雪も積もっていて、ホットどころではない。…寒い。ここは、天気予報で「山沿いでは雪になるでしょう」という「山沿い」なのだ。
同じ京都市内なのに大阪に行くよりも交通費もかかる。
20円高い。

鞍馬といえば天狗である。駅に天狗あり、駐車場にジャンボ天狗あり、神社に天狗みくじあり、と何でもありだ。現地に天狗についての解説があった。
「この付近は古来から天狗が棲みつき出没、牛若丸(義経)はここで鞍馬の天狗をはじめ高雄・愛宕の天狗などから武芸を教わったと伝えられる」
「天狗は古くから山岳信仰とかかわりがあり、修験者が守護神として祀っていたが、中世以降山伏の堕落もあり天狗を妖怪や『魔』とみなす風潮も生まれるなど、時代とともに姿やイメージも変遷していった。本来の天狗とは山に宿ると考えられる『精霊』で、姿をみせない神秘的存在であろう」
さらにここ鞍馬の天狗は全国の天狗たちの総元締めらしい。えらいのだ。 

しかし、そもそも天狗はなぜ顔が赤くて、鼻が長いのだろう?
天狗の由来には諸説あるらしいが、日本書記のサルタヒコ神を元とする説がある。
そのサルタヒコ神の特徴として、赤ら顔、長い鼻、山伏の格好などといったものがあるそうだ。
現在我々がイメージする天狗の容姿と近い。というかそのままだ。

ちなみに僕の地元の福岡県添田町の英彦山(ひこさん)の天狗も有名だそうだ。鞍馬の天狗と並んで八大天狗にランクインしている。恥ずかしながら英彦山に天狗伝説があったなんて今回初めて知った。英彦山には中学や高校の体験学習でよく行っていたのに…。英彦山もとても寒いところだった。「山沿い」だ。

実は鞍馬山には10年ほど前に一度来たことがある。大学1回生の夏だった。
学生劇団に所属していた僕は、当時のお芝居で鞍馬天狗の役をやることになり(なんだそれ)役作りのヒントの為にやってきたのだ。意気揚々とやってきたが、ただ山道を歩いて参拝しただけに終わった。残念。しかし劇団の仲間には「山を感じてきた」とわけのわからないことを言っていたような気がする。付け加えておくと僕のやった鞍馬天狗という役はチョイ役だった。

もちろん、牛若丸に関するものもたくさんある。
「牛若丸息次ぎの水」 牛若丸が修行に通った道の途中、のどの乾きを潤したといわれる湧き水。(写真左)
僕も是非とも飲んでみたかったが、寒さの為、断念した。のども乾いてなかったし。
「義経公背比石」 牛若丸が鞍馬山をあとに奥州へ下るときになごりを惜しんで背を比べた石。(写真中)
僕も背を比べてみたが、背を比べるにしては随分と低い。牛若丸はこの石と同じくらいだったらしい。
「義経堂」 義経を祀るお堂。この近辺で義経は剣術を学んだらしい。(写真右)
僕も剣術を学ぼうとしたが、危ない人と思われるのでやめた。

本当に危ない人がいるのか「魔王の滝」には「魔王の滝で滝行をしないで下さい」という立て看板があった。
しかし滝を見ると確かに打たれたくなってしまう。しかも「魔王」の滝ならなおさらだ。
そんな僕は危ない人なのかもしれない。いやそんなことはない。
きっとみんな打たれたくなるに違いない。

滝行は諦めたが、山道を歩くのはかなりの修行になった。
長い石段、木の根が張りめぐされた道、そして雪。
まさに鞍馬山は道場である。
「鞍馬山は、毎日を明るく正しく元気よく積極的に生きぬくための活力を、本尊である尊天からいただくための道場である」と入り口で渡されたパンフレットには書いてある。
ふむふむ。しかし僕は山道を歩いて、逆に活力を失ってしまった。
しかも国宝「毘沙門天像」が安置されてある霊宝殿は冬季休業中で中に入れなかった。
あぁ活力が…。
小休止に雪だるまを作ってみた。うぅ冷たい。道行く人の視線も心なしか冷たい。
三十過ぎの男が雪だるまを作って、それを写真に撮っている姿はちょっと危ないのかもしれない。
しかし、後から来る人にとって僕の作った雪だるまが「活力」になることだろう。

そんなふうに活力を失ったり、与えたりしながら、貴船の方までやってきた。
鞍馬駅まで戻らずに貴船口駅から電車に乗ろう。
…ん?貴船口駅?「口」って何だ…?
ま、いいやと思い、鞍馬山を下りると「貴船口駅まで2Km」という看板があるではないか。
そうか、それで「口」か。なるほど。ま、いいや。バスもあるし。
バス停へ行くが、なんと冬季休業中!
バスまで?…恐るべし鞍馬山である。

少しへこむが、せっかくだし貴船神社にでも行こうという気になる。
おぉポジティブだ。もしかすると知らないうちに鞍馬山の尊天から活力をもらったのかもしれない。

貴船神社は都の水を司る神として崇敬されてきた神社だ。
降雨止雨を祈る神として信仰されてきたそうだ。
そんな貴船神社には、水に浸すと文字が浮かんでくるおみくじがある。
近くにいたカップルがそれをやっているのを見て、無性にやってみたくなった。
今年は初詣にも行っていないし、遅くなったが今年の運勢を占ってみようではないか。
カップルがその場を去るのを見計らって、おみくじを購入し水に浸してみた。
「中吉」が出てきた。
中途半端だなあと思うが、結構いいことが書いてある。
願望、恋愛、学問、病気、商売、いずれも良い。出産まで「安心」とのことだ。
そうか、中吉は大吉の次にいいのか。そうなのか。気付かなかった。意外と嬉しくなる。
ただ転居だけが「望み叶わず」だった。
エレベーターのない五階の部屋に嫌気が差してきているのだが、望みは叶わないらしい。
しかし、鞍馬山で活力を得たので大丈夫だろう。

そういえばこの辺りに「くらま温泉」があったことを思い出す。
露天風呂のある、京の奥座敷だ。
ほっこりしたい気もあるし、帰り道で湯冷めをしてしまう恐れ(というか確実にする)もある。
MONOの事務所の近くにも露天風呂つきの銭湯があるではないか。(周りは民家だが)
そして自宅の近所には、新しく出来たスーパー銭湯があるではないか。
よし、諦める。男らしく諦める。
しかし自宅に戻った僕は、結局、銭湯でもスーパー銭湯でもなく、ユニットバスで今日一日の疲れをとったのであった。


今日のおみやげ

鞍馬は山菜を使った木の芽煮などの佃煮が有名です。
また、天狗や牛若丸にちなんだものがたくさんあります。
僕が購入したのは天狗のキーホルダー。
鈴にもなっています。
使いみちに困りそうですが、厄除けということで、部屋にこっそりと飾ることにしました。

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